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Daisuke Kono

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1.出会い
 
春の暖かな日差しにも[かげ]りが見え始め夏がやって来る。ここは東京都奥多摩町。とはいっても東京の西端に位置するこの町は、都心とは無縁のごくごく普通の田舎町。自然も多く、いわゆる地方の人達が思い描く、「ザ・トーキョー」の面影は全く無い。そんなどこにでもある町のどこにでもある小さな学校に、とある一人の若者はいた。
 
「椎名先生、さようならー。」
 
学校の正門からは、100m程の曲がりくねったコンクリートの坂道が下の通りまでなだらかに続いている。その坂の一番下に、家に帰るランドセルを背負った小学生や制服を着た中学生たちを送り出す椎名[しいな]トオルの姿があった。トオルは25歳の数学教師で体格も髪型も[いた]って普通、顔も特別ハンサムというわけではないごく普通の若者で、特に人より何か[ひい]でたモノを持っているというわけでもなかった。
ただ一つ長所を挙げるとすれば、性格が穏やかで優しいこと。それが過ぎてか生徒達にからかわれる事もあったが、基本的には周りからよく好かれていて、若手でありながら(というより若いからなのか?)生徒よりいろいろな相談(時には女子生徒の恋愛相談まで)を受けることも多く、そういう意味ではベテランの先生たち以上によく頼られていた。また、トオルはそんな自分を嫌いではなかったし、それが唯一自分の良い所なんだと、心からそう思っていた。
 
「はい、さようなら。寄り道しないでまっすぐ家に帰るんだよ。」
 
「はぁ~い!」
 
元気よく返事をしたのは小学生の集まりだけで、中学生は部活動のため、校外にある部の専用グラウンドに向かう生徒や、友達の家や生徒がよく集まるお店(最近は近くの商店街にできた、田舎には珍しい某ファーストフード店が一番人気)に寄ったりする生徒がいたりで、会釈[えしゃく]はするもののまっすぐ家に帰る気はさらさらない、という感じの子が多かった。まぁそれもいつもの事なので、トオルはそれ程気に止めてはいなかった。
また、トオルの学校は小学校と中学校の校舎が同じ敷地内にあり、建物自体が繋がっているので先生も生徒も両方の校舎を行き来でき、時には合同行事などもあった。そのため、中学の数学教師として採用されたトオルであったが、小学生たちにもよく顔と名前を知られていた。さらに、この学校はトオルの母校であるため、周辺の地理はもちろん、学校の勝手をトオルはある程度知っていて、教員の内定が決まった時に勤務先の希望は出していたのだが、新卒ながら希望の学校に採用された理由にはその辺もあるのかもしれないなと、トオルは思っていた。
 
しばらく下校する生徒たちを見送った後、職員室に戻って日誌やプリントの整理、小テストの採点など残った仕事に取りかかる。これもまたいつもの事で、教師になって3年目、1年生の副担任なども任されていたトオルではあったが、仕事の内容自体は1年目からほとんど変わりなかった。
 
「椎名先生、ちょっといいですか?」
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