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Daisuke Kono

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2.化け猫 ~妖怪の名前~
―「化け猫」とは、日本の妖怪の一種でネコが妖怪に変化[へんげ]したものであるが、「猫又[ねこまた]」と混同されることも多く、その区別は曖昧[あいまい]である。また、化け猫の伝説は日本のあらゆる地方に残されているが、佐賀県の鍋島[なべしま]の化け猫騒動などが特によく知られている。詳細についてはウィキペディア(Wikipedia)の「化け猫」を参照されたし。―
 

猫は顔を正面に戻し、相変わらずの格好で湯船に浸かっているが、トオルは固まってしまって上手く言葉が出てこない。何だ?俺の聞き間違いか?いや、確かに今、俺の名前を…トオルって。トオルは頭の中がパニックになった。
 
「今…お前しゃべったか?おい?」
 
トオルは思い切って聞いてみたが、猫は正面を向いたまま「極楽、極楽」とでもいうような表情を浮かべている。
 
「まさかな…猫がしゃべるわけないよな。今日はお、俺…疲れてるんだな。」
 
トオルは自分の聞き間違いだと思い、猫の方に手を伸ばしかけた。すると猫が再びこっちを向いて言った。
 
「うるせぇなぁ。聞き間違いじゃねぇよ。疑り[ぶけ]ぇなぁ。これだから人間は嫌だぜ。」
 
「うわぁ!」
 
トオルは手を引っ込めると同時に思わず声を上げた。ホントに…ホントに[しゃべ]ってる!トオルはできるだけバスタブの端に身を寄せて、おそるおそる声をかけた。
 
「お、お前…一体、何なんだ?猫だろ?何で、しゃべれるんだ?」
 
すると猫は、いかにも面倒臭[めんどうくさ]いなとでもいうような言い方でこう答えた。
 
「はぁ?猫に決まってんだろ!これが犬に見えるかよ!?あんなヤツラといっしょにすんな!迷惑だぜ。」
 
「あんな奴等[やつら]って…。」
 
トオルは、こいつの言う「猫」と「犬」の差はあまり理解できなかったが、とりあえずそれについてはあまり深く考えないようにして、もう一度猫に話しかけた。
 
「じゃ、じゃあ、何でしゃべれるんだ?普通の猫は…言葉なんか、しゃ、しゃべれないぞ!」
 
人間と猫がいっしょの風呂に入り会話をしているという異様な状況に、トオルはまばたきを繰り返したり、頬をつねったりもしてみたが、周囲の様子は一向に変わらない。夢でも幻でもない。トオルは驚きと同時に恐怖で体が震え始めた。しかし、猫の方は全くおかまいなしという感じで冷静な声の調子で話を続けた。
 
「ああ、そうだな。普通の猫は人間の言葉は話せない。まぁ中にはいくらか言葉を理解できる頭の良いのもいるがな…。でも、オレ様はそいつらとも違う。特別[・・]なのさ。」
 
猫は少し得意がるような口調でそう言った。トオルはまだ体が震えている。
 
「まぁ、そんなに怖がるなよ。取って[]おうってわけじゃあない。でもあれだな、オレの素性[すじょう]を話したらお前は余計怖がるかもな。さて、どうするかな…。」
 
猫は正面を向いて考え込んでいる。トオルはまだ混乱していたが、とりあえず勇気を出して聞いてみた。
 
「お、教えてくれ!でないと…こ、こっちも…わけがわからん!お前は一体、何者なんだ!?」
 
すると猫はまたこっちを向いて、見える左目を細くしてこう答えた。
 
「オレ様はな、全国の猫を[]べる猫の親玉一族の末裔[まつえい]さ。小さな地域にはボス猫なんてのもいるがな…あいつらなんか目じゃない。オレはあらゆる猫たちの総大将なのさ。そうそう、人間は昔、オレたちのことをこう呼んで恐れてたぜ…「化け猫」ってな。」
 
「ば、化け猫…!!」
 
トオルはのぼせたわけではなく、恐怖のあまり眩暈[めまい]がして倒れそうになった。頭の中では「妖怪、幽霊、宅急便」などの文字がぐるぐる回っていた。「もうダメだ」トオルがそう思ってその場から逃げ出そうとした時、それを察知[さっち]したのか、猫の方がトオルを制止する言葉をかけた。
 
「まあ待てよ!話は最後まで聞けって!昔はな、そりゃ「化け猫」なんて呼ばれた時期もあったがな。今じゃ一族の血の力も弱まって人間の言葉を話せる程度よ。オレのご先祖様の中には人間に化けたり、魔術みたいな力を使えるのもいたっていうが、今のオレにはそんなことはできない。今のオレ[・・・・]にはな…だから安心しろ!」
 
安心できない!全く安心できない!トオルは心の中でそう思いながら、とりあえず今すぐ逃げ出すのを止めた。もし下手に逃げようとすれば、自分は[]り殺されるかもしれない。嫌だ!猫に殺されるなんて絶対嫌だ!!
 
「と、とりあえずは何もしないんだな?」
 
トオルは我が身の安全のために、しっかり確かめるように聞いた。
 
「しつこいな、トオル。お前さ…女にモテナイだろ?」
 
ば、化け猫なんかに言われたくない!トオルはそう思ったが、思いがけず人間のような言葉の返しをしてきたことが、トオルの心をほんの少しだけ落ち着かせた。
 
「ま、とりあえずは何だ…ここを出るか。あんまり浸かってるとのぼせちまうよ。出てからゆっくり話そうぜ…な!」
 
あまりに衝撃[しょうげき]的な出来事のため、トオルはお風呂に入っていることを忘れていたが、確かにこいつの言うとおり少しのぼせてきたみたいだ。トオルが先に上がろうとすると、猫は器用にも湯船からジャンプしてバスタブから外に出た。そして、体を振りながらまとわりついている水をバタバタと[はじ]き飛ばした。トオルはそのしぐさに少しビクッとしたが、胸に手を当て深呼吸しながら気を落ち着かせて聞いてみた。
 
「そ、そういえば、お前…名前なんてあるのか?」
 
すると猫は体を振るのを止め、顔をトオルの方に向けてこう答えた。
 
「オレの名前か?オレの名前はな、「カイ」っていうんだ。よろしくな、ト・オ・ル!」 


素性[すじょう]:(人の)生まれた家柄や血筋のこと。
末裔[まつえい]:末の血統、子孫のこと。
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