忍者ブログ

Daisuke Kono

home information youtube profile mail
blog song photograph link
~妖怪の本性?~
 
トオルはその夜、なかなか寝付けなかった。あの名前付け勝負の後、トオルは2階にある自分の部屋で、明日の授業で使う資料の準備をしたり授業の計画を立てた。母はカイに夢中になっていて、何度も何度も「カイ!」とか「カイ君!」と呼ぶ声が下のリビングから聞こえてきた。「まるで初めてペットを飼ってもらった子供みたいだな」トオルはそう思ったが、そういう母の無邪気な所もトオルは嫌いではなかった。

トオルと幸子の寝室は両方とも2階にあり隣同士になっている。夜の11時半、今もカイは幸子といっしょに彼女の寝室にいる。トオルはまだカイへの警戒心(けいかいしん)を完全に解いたわけではない。何といっても相手は「化け猫」だ。いつ何時その本性を現すかわからない。もしかしたらカイはトオルと幸子が寝付いた後、自分たちに()りつくか()うつもりなのかもしれない。そう思うと、トオルは安心して眠ることができなかった。

夜中の1時をまわってもトオルは布団の中でぱっちりと目を開け、隣の幸子の部屋の方に耳をそばだてていた。隣からは、物音どころか寝息一つ聞こえてこない。もしかしたら、もうすでに母さんはカイに…そんな最悪の状況を考えたりもしたが、幸子が部屋に入ってから悲鳴も何も聞こえてきていない。トオルはすぐにその良からぬ思考を頭の奥の方へと押しやった。
午前2時に近づいてきた頃、そのあまりに静かすぎる暗闇のためか、トオルにも少しずつ眠気が襲い始めた。「今日は大丈夫かな。いや、まだ油断はできない…なんといって…も、相手はばけね…」トオルはそのままウトウトと眠りに落ちてしまった。
 
次の日の朝7時半、トオルは自分が眠ってしまったことに気が付いて布団から飛び起きると、寝惚(ねぼ)(まなこ)にまだ少しふらふらとした足取りのまま、すぐに母のいる1階のキッチンへと向かった。キッチンでは幸子がいつものように朝食の味噌汁を作っていた。椎名家の朝食は平日が米、休日がパンと暗黙(あんもく)のうちに決まっていた。トオルは幸子の後ろ姿を見てほっと安堵(あんど)した。トオルが起きてきたことに気付いた幸子は、
 
「あら、トオル。おはよう。今朝はちょっと遅かったわね。どうかしたの?そんな顔して。」

と、 いつもと変わらない調子でトオルに声をかけた。トオルは安心した直後の気の抜けたまぬけな顔を母に見られたが、そんなことは気にせず母に聞いてみた。
 
「お、おはよう。あの、母さん。昨日はちゃんと眠れた?何か…変わったことはなかった?例えば、その…悪い夢を見たとか、胸の辺りが苦しくなったとか…。あと枕元に妖怪…みたいなのが出てきた…とか?」
 
幸子は不思議そうな顔をしてトオルの方を見た。
 
「昨日?特に何もなかったわよ。この通りピンピンしてるけど。それより、トオル。あなたの方が変よ。昨日、眠れなかったの?化け物が出てくる夢でも見た、みたいな顔してるわ。」
 
「昨日は「化け物」じゃなくて、「化け猫」が出てきたんだ!しかも「夢」じゃなくて「現実」に!」トオルは口に出して言いたかったが、幸子のことを考えるとそれは言い出せなかった。
 
「ま、妖怪なんかが出てきても、私のことはカイ君が守ってくれるわ。ねぇ、カイ?」
 
幸子はそう言って食卓机の下を(のぞ)き込んだ。トオルは(あわ)てていて気が付かなかったが、どうやらカイもキッチンにいたらしい。話を聞かれたことに「しまった!」と思ったトオルだったが、すでに遅かった。二人の会話を聞いたカイは、丸くなっていた体を起こしてトオルの方をキッと(にら)みつけた。しかしすぐさま、それほど気にしていないかのように再び体を丸くして眠ってしまった。
 
「いや、そのカイが…妖怪(・・)なんだってば!」トオルは口に出して言いたかったが、それも当然言い出すことができなかった。


※耳をそばだてる:ある方向に耳を向けて、声などを聞き取ろうとする。耳をすます。
PR
この記事にコメントする
お名前:
タイトル:
文字色:
メールアドレス:
URL:
コメント:
パスワード(8文字以内):   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバックURL
忍者ブログ [PR]