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Daisuke Kono

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~妖怪の性格~
 
「じゃ、行ってきます。」
 
「はい、行ってらっしゃい。今日も頑張ってね。」
 
トオルは朝食を食べ仕事に行く準備が整うと、母に見送られながらすぐに家を出た。いつもは新聞やTVなどを少し見て一息してから学校へ行くのだが、今日は昨日の夜更かしのせいで、起きるのが少し遅くなってしまった。カイはと言えば、今朝は普通のネコみたいにおとなしく食卓机の下でずっと眠り込んだままだった。
 
朝の8時少し前、通りには登校する小学生たちがすでにたくさんいる。中学生も小学生ほどではないがまばらに登校している。
 
「はい、みんな車来るよー。気をつけてー。」
 
車の通りが多い大きな道沿いには、高齢者や地域の方たちが交通安全のために子供たちを誘導していた。
 
「あ、椎名先生だ!おはようございまーす!」
 
小学生たちは近所の子たちが集まって、グループ登校することになっている。トオルは中学校の教師だが、特殊な校舎の造りのため、朝は小学生の子供たちにもこんなふうによく挨拶(あいさつ)をされる。たまに自分のクラスの生徒たちに会うこともあるが、中学生は年頃の気恥(きは)ずかしさもあってか、挨拶はみんな小さな声でほとんどが会釈(えしゃく)程度だ。
 
「みんな、おはよう。今日も元気だね。お勉強頑張ってね。」
 
「ふぁーい!」
 
「せんせぇー、僕も自転車乗せてよ~!」
 
中にはこんなふうに自転車の後ろを追いかけてくる子もいるが、トオルももう慣れたもので彼らを上手くかわしていく。トオル自身が子供のときには特に思わなかったが、大人になってみると彼らの無邪気さをとても(いと)おしく思う。しかしその反面、今でもあんなふうに生きられたらと(うらや)ましく思うときもある。ただ、今の自分の役割は少しでも多くの子供たちに勉強の楽しさを教えること。それがいずれ彼らが大きくなってから社会で生きていくために直接的、あるいは間接的に役に立っていくと信じている。それはまた、彼らの幸せにも繋がるはずだ。大げさに聞こえるかもしれないが、トオルは本気でそう思っていた。だからこそ彼は教師という道を選んだのだ。
 
トオルは学校に着き、教師専用の自転車置き場に自転車を止めると、職員たちの靴箱がある正門の方へとまわった。体育館からはボールの()ねる音や剣道の竹刀(しない)のしなる音、音楽室からは吹奏楽部のブラスの音が聞こえてくる。途中、自分が受け持つクラス以外の何人かの生徒から挨拶をされた。「さて、今日は自分には課題がある…「いじめ」を解決することだ!」トオルは気を引き締めて、2階にある職員室へと向かった。
 
職員室に入ると、先生たちのすでに何人かは授業の準備を始めていた。その中には双葉(ふたば)(さき)もいた。トオルは少し緊張した面持(おもも)ちで彼女の所に歩いていって、「おはようございます」と声をかけた。向こうも立ち上がって挨拶をすると、トオルは話を切り出した。
 
「双葉先生、あの…昨日の件ですが、今日彼らと話し合ってみます。まだ何とも言えませんが、今ならまだ話し合いで解決できる段階だと思います。」
 
咲はそれを聞くと、
 
「はい。椎名先生に全てお任せします。すみませんが、どうかお願いします。」
 
と言って丁寧(ていねい)に頭を下げてきたので、トオルもそれに対して軽いお辞儀(じぎ)を返した。
 
朝のホームルーム。トオルはB組の担任である湯舟先生が出席をとっている間、いじめの標的にされている根本には1,2時間目終了後の休憩とお昼休憩に、いじめの主犯と思われる山本にはお昼休憩の時にだけ、生徒相談室に来るようにそれぞれに声をかけた。トオルはまず根本の話を聞いて、いじめの原因になったと思われることなどを聞き出し事実関係を確認する。それから山本を呼び出して、お昼に3人で話し合おうと思っていたのだ。
 
1時間目終了後の休憩中、トオルは生徒相談室で根本を待っていたが結局彼は来なかった。根本自身何かを察知して行きづらくなったからなのか、その理由はわからなかったが、トオルはとりあえず2時間目が終わった後も同じように相談室で待ってみることにした。すると休憩に入って割とすぐに、根本が申し訳なさそうにやってきた。
 
「すみません。2時間目の英語の宿題がちょっと残ってて…1時間目のあと、来れませんでした。」
 
「うん、構わないよ。ちょっとそこに座ってくれる?」
 
トオルは「なんだ、そんなことだったのか」と、ちょっと安心した。トオルは根本を自分の向かいの席に座るように(うなが)すと、「はい、失礼します」と言ってからそこに座った。「素直だし、真面目な子だよな」トオルは改めてそう思った。
 
「ちょっと聞きたいことがあって、今日はここに呼んだんだ。もし言いづらいこととか、言いたくないことがあったら、「言いたくない」って言って構わないから。遠慮しなくていいよ。じゃ、単刀直入(たんとうちょくにゅう)に聞くね。ある先生から聞いたんだけど、根本、お前いじめにあってるのか?…相手は山本たちのグループという話だけど、違うかな?」
 
根本はトオルの「いじめ」という言葉に驚いて、少し言葉を()まらせたが、意外と早く口を開いた。
 
「え?えっと…ど、どうでしょう。困ったな。正確に言うと、今、アイツらとケンカしてます。アイツらって言っても主に山本ですけど…。ま、僕は何をしてきてもほとんど無視してるんで…それがいじめ?になるのかどうかはわかりません。」
 
トオルは根本の言葉を最後まで聞いた後、さらに尋ねた。
 
「じゃ、もう一つ聞いていいかな?自分がそういう目に合うようになったきっかけって何が原因かわかるかな?思い当たることはない?」
 
根本本人にははっきりわかっているのだろう、これもすぐに答えてくれた。
 
「たぶん1ヶ月ぐらい前なんですけど、一度山本と言い争ったことがあって…それが原因だと思います。元々アイツとは仲良かったんですけど、山本の家に行ったときにアイツが好きな今流行(はや)ってる女性アーティスト、ちなみに「ジャックナイフ・グルーミング」っていうんですけど、俺がそいつらの事をなんか売れ線(・・・)ばっかであんまり好きじゃないって言っちゃったんです。そしたら山本の奴すげぇ怒っちゃって…その数時間前にも2人で対戦ゲームしてる時に俺が激勝ち(・・・)して、気まずくなっちゃってたんですよね。たぶん…それです。その後からお互い話さなくなったって感じで…はい。」
 
「ジャックナイフ・グルーミング」とは、アイドル級のルックスを持つ女性8人組で、ノリの良いポップスやロックを歌いながら踊るユニットだ。最新シングルは連続で1位を取っていて、今10代20代の若者の間では1,2を争う人気グループになっている。「なんだ、そんなことか。子供のケンカの原因っぽいな」とトオルは思いながらも、本人達には重大なことなんだと彼の話をしっかり聞いて、その場はそれで根本を帰すことにした。根本が教室に戻る際に、
 
「昼休憩にもう一回来てほしいんだけど、先に山本から話を聞きたいから、お昼を食べた後、少ししてから来てもらってもいいかな?」
 
トオルがそう言うと、根本は「はい。わかりました」と言って、自分が誰かに言いたかったことを話してほっとしたのか、最後は笑顔まで見せながら教室に戻っていった。
 
「さて、次は山本だな。」
 
3時間目開始のベルが鳴ると、トオルは腕時計の時間を確認し生徒相談室の鍵を閉め、そのまま自分の授業がある教室へと向かった。
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