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Daisuke Kono

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トオルの学校では、平日は先生たちも給食を食べられることになっている。事前に申し込まないといけないのだが、費用も安いし子供たちといっしょに教室で食べる先生も多い。母の幸子はいつも「お弁当作るわよ」と言ってくれるのだが、トオルは毎日学校の給食を食べることにしている。特にこれといって意味はないが、トオル自身がそうしたかったからだ。
また、いつもは会議室で職員が何人か集まって食事をするのだが、今日は生徒と話があるということで、生徒相談室の方に給食を持ってきてもらっていた。トオルが食事をとっていると、山本が「失礼しまース」と言って入ってきた。
 
「先生、用ってなんですか?休憩が減るので、できれば手短にお願いします。」
 
山本は早く話を終わらせたいのか、()くような口調で言った。
 
「まぁまぁ、そんなに(あわ)てないで。そこに座って。」
 
「はい、失礼しまッス!」
 
トオルは食事をいったん()め、給湯器からお湯を注ぎ山本にお茶を入れてやった。山本は「どうもッス」と言いながらそれを口に含むと、熱いのか苦いのかまではわからないが、舌を出して顔を(ゆが)めた。トオルは話を切り出した。
 
「山本…根本とケンカしてるんだってな?ちょっとエスカレートしてきてないか?」
 
山本はトオルが根本とのケンカの事を知っていることにかなり驚いた様子だったが、すぐにトオルに言い返してきた。
 
「だって、アイツ。すっげぇムカつくこと言ったから!J.G.をバカにしたんス。マジ許せねぇ!だから、仲間とちょっと痛い目に合わせてやろうって…。あ、J.G.っていうのはジャックナイフ・グルーミングっていうグループの略で、去年メジャーデビューした…。」

山本がそう言いかけた所で、

「うんうん、知ってるよ。まぁ、もう少し落ち着いて…。」
 
と、山本が少し興奮してきているようだったので、トオルは彼の気を落ち着かせるためにお茶を(すす)めた。すると彼は、今度はそれを一気に飲み干した。
 
「好きなものを否定されて怒るお前の気持ちもわかるけどな。中学生になったんだし、もうちょっと気を大きく持てないか?その前にゲームのことでもケンカしてるんだって?もう少し相手を受け入れるというか理解するというか、そんな人としての器の大きさも男して必要だぞ!それにあんまりそんなイジメみたいなことばかりしてると、好きな女の子にも嫌われてしまうんじゃないか?」
  
「男として…人としての器の大きさ、ですか?好きな子に嫌われる…?」
 
山本は少し考え込みながら一人言のように言った。トオルはそれを聞いて、「こいつ、好きな子でもいるのかな?」そう思った。

「ああ。まぁちょっと考えてみな。あと、根本本人もここに呼んでるから、これから3人でじっくり話し合おう。」
 
山本は少し気まずい顔をしたが、そうこうしないうちに根本が「失礼します」といって入ってきた。根本も山本もお互い一瞬目を合わせたが、二人ともすぐに目を()らした。
 
「さて、山本どうする?お前の男としての大きさが問われるときじゃないか?根本、お前も山本に何か言いたいことがあるんじゃないのか?お互いの気持ちを素直にぶつけあってみたらどうだ?」
 
トオルはその後、無言に(てっ)して二人どちらかが話し始めるのを待った。先に口火を切ったのは、いじめられている根本の方だった。
 
「山本、あの…前は悪かったな。J.G.に文句言って。あれからアイツらのアルバムもちょっと聴いてさ…カッコイイ曲もあるなって思ったよ。セカンドとか、俺、結構好きかも…。」
 
根本がそう言うと、山本は根本の方を勢いよく振り向いて言った。
 
「だろ?マジ良いんだって!俺もセカンド一番好きだし。お前も!?いや、たぶんお前だったらセカンドの良さわかると思ったんだよな!3曲目とかマジやべぇし。」
 
根本もさらにそれに返して、二人はトオルを放って好きなアーティストの話を始めた。ある程度二人が話し終えるとトオルは、
 
「で?どうするんだ?山本?根本?」
 
と言って二人の背中を押した。二人は声を(そろ)えて「ごめんな」とお互い謝った。今回勃発(ぼっぱつ)したいじめ騒動は、かなり簡単だったが、一応これでひと段落した。
 
お昼休憩の時間も残りわずかになった。いじめに関わった当人たちはあの後、二人で話しながら教室に戻っていった。トオルはそれを見送ると、残った給食を急いで食べ、机を()き、空になった食器を()げて生徒指導室を出た。「今回は楽だったけど、自分もやればできるじゃないか!」トオルは教師になって3年目、自分の仕事に少し自信を持った。
 
職員室に戻ると、(さき)がトオルの元に寄ってきた。
 
「どうでした?」
 
咲はかなり気になっていたようで少しそわそわしている。確かに学校におけるいじめの解決は教師にとって重要な課題ではあるが、普段の咲の様子とは明らかに違うことにトオルは少し違和感を覚えた。
 
「もう大丈夫です。解決しましたよ。二人は話をしながら教室に戻っていきました。また前みたいに仲良くなると思いますよ。」
 
咲はそれを聞くと、とても(うれ)しそうな笑みを浮かべた。
 
「ありがとうございます!私も何かできないかって思ってたんですけど、今日は他のクラスの特別授業があったし、どうしても時間がとれなかったんです。でも、椎名先生に相談して本当に良かった。」

トオルもそれを聞いて嬉しくなった。
  
「あの…双葉先生は、何かいじめを無くすことに対しての強い思いというか思い入れというか…何かそういったものがおありになるんですか?いや、教師としては当然だと思うんですが、先生の様子がいつもと違うなという感じがして…気のせいでしょうか?」
 
トオルが尋ねると、咲は少しはっとしたような表情をしてから次のように言った。
 
「あ…実は、私、その…高校の頃ですけど…いじめにあってた時期があるんです。
 
トオルは、双葉先生のみたいに多くの人に好感を持たれるようなタイプの人でもいじめにあうのか?と、ちょっと驚いてしまった。
 
「1年間だったんですけど、高2の時期に同じクラスの女子何人かから教科書とかカバンをどこかに捨てられたり、上履きを隠されたり…机に落書きなんかもされたりして。でも自分には当時、心当たりが全くなくて。それでどうしていいかわからなくて…ずっと我慢してたんです。ホント(つら)かった…。」

「それは…ひどいですね。」
 
なるほど。それで普段はおとなしい感じなのにあんなに必死だったのか…トオルは納得がいった。
 
「それは辛いことを思い出させてしまって、すみませんでした。」
 
トオルが頭を下げると、
 
「え?いや、椎名先生は全然悪くありませんから!悪いのはいじめてた子たちで…。それに高3になったらいじめはなくなりましたし、いじめてた子の一部とも仲良くなったぐらいで。聞いてみたら、彼女たちのグループのリーダーみたいな子に好きな男の子がいて、その男の子が私に好意を持っていてくれたらしくて…それが原因だったみたいです。今では良い…ってことはないけど、学生時代の思い出の一つです。でも、今回はすぐに解決して良かった。椎名先生、本当にありがとうございました!」
 
咲はそう言うと、また深々とお辞儀をして自分の机に戻っていった。「双葉先生みたいに周りに好かれすぎる人にはそういう悩みもあるのか。自分がそういうタイプの人間でなくてホントに良かったな」とトオルはその時、心からそう思った。
 
5時間目のベルが鳴った。トオルは授業の用意をして、1階にある1年E組の教室へ向かった。途中ベルがすでに鳴ったにも関わらず、教室の外には生徒がまだ何人も出てきていた。
 
「みんな、授業もう始まってるよ。教室へ戻って。」
 
2,3年生の生徒たちは慣れてしまっていて、先生が来ても動じずゆっくりと歩いて教室に入っていく。しかし、1階の1年生の教室がある廊下では、
 
「先生来たぞ!みんな入れぇ。」
 
と誰かが大きな声で言った後で、大急ぎで教室へ戻って席に着く。普段と変わりない光景だが、自分の授業のあるE組だけ今日は少し違っていて、教室の外には誰も出てきていないし、先生がやって来るのを見張るような生徒がいない。さらに教室の前まで来てみると、廊下に面したドアも窓も全部閉め切っていた。「変だな?いつもは開いてるのに…」トオルはそう思って、E組の教室のドアを開けた。
 
「やべ…先生来たじゃん!どうする?」
 
「どうするったって…。」
 
トオルが部屋に入ると、多くの生徒は席に着いていたが、数人はまだ後ろの方でかたまって何かを囲んでいた。
 
「どうしたの?みんな、早く席に着きなさい。」
 
トオルがそう言っても、後ろのかたまりはこちらをチラチラと不安そうに見るだけで、なかなか席に戻ろうとしない。

「そこに何かあるの?」
  
トオルが生徒の集まってる方に近づいていくと、一人の女の子が声を上げた。
 
「先生、教室に…猫がいるんです!
 
すると集まっている生徒たちが少し広がって隙間ができ、中心にあるモノが見えた。そこには見慣れた黒い猫が一匹、教室の(はし)にたたずんでいた。
 
「カイ!?」
 
トオルは思わずそう叫んでしまった。
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