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Daisuke Kono

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「今日、女と話してただろう?」
 
ある日、トオルが家に帰って自分の部屋のベッドで休んでいると、突然カイが入ってきて話しかけてきた。最近はよく部屋にカイが入ってくるので、トオルはわざと部屋の扉を少し開けるようにしている。そしてカイは器用に扉を閉める。幸子に会話を聞かれないようにするためだ。
 
「女?あ、ああ。双葉先生か。それがどうした?」
 
トオルは少し顔を赤らめた。双葉先生とはあのイジメの一件以来、少し話をするようになった。他の独身の先生方より一歩リード、といった感じだ。
 
「ははーん、トオル。お前、あの女に気があんな?」
 
トオルは図星だったが、カイに気付かれないように冷静を(よそお)った。
 
「お前には関係ないだろ!猫のくせに…う、うるさいぞ!」
 
するとカイは横たわっているトオルの頭のすぐ(そば)まで寄ってきて、ベッドに前足をかけながら言った。
 
「アレ、なかなかイイ女だなぁ。性格なんかかなり良さそうじゃないか。それにあの笑顔、ありゃ万人(ばんにん)に好かれるタイプだな。ライバルも多いんじゃないか?」
 
トオルはネコにしては悪くない分析力だなと思いつつ、カイとは逆方向に顔を向け聞こえない振りをした。
 
「あ、でも、あの女もイイんじゃないか!?いつも白衣を着たメガネの、確かマツ…マツ…。」
 
「松本先生か?」
 
トオルはカイの言葉が耳に入って思わず答えてしまった。松本先生というのは保健科の先生で、バツイチでアラサー真っ盛りの33歳。お洒落(シャレ)な色メガネをいつもかけておりスタイルも抜群に良く、一部の中3男子には絶大な人気を(ほこ)っている。
 
「そうそう、確かそんな名前だったな!あの女、かなりイカしたプロポーションじゃねぇか!顔も美人で胸はデカイし…。」
 
トオルは「どこを見てんだ?このエロ猫!それにプロポーション(・・・・・・・)なんてもう死語だろ?」と思いつつ、カイの話を再び無視することにした。
 
「そういや、そのマツモトってのに比べると、フタバってのははイイけどは確か小っちゃかったよな。スタイルは中の上ってとこか。の太さは悪くねぇけどはどう…。」
 
それを聞いたトオルはムクッと起き上がると、何も言わずにカイの首根っこを(つか)んだ。
 
「こ、こら!何すんだ!?やめろ、トオル!」
 
トオルは、部屋の少し高い所にある片開き式になった(かぎ)付きの小さな押入れを開けると、そのままカイを放り込み非情(ひじょう)にも外から鍵をかけた。
 
「オイ!トオル!?何すんだ!開けろ!トオルおい!?」
 
カイは必死で押入れの中からカリカリと戸を開けようするが、鍵がかかっているのでびくともしない。
 
「双葉先生のことをそんなにスケベな目で見た(ばつ)だ。今日一晩そこで反省しろ、このエロ猫!
 
トオルはそう言ってベッドに横になった。
 
「そんなに怒んなよ~、もう言わねぇからさぁ。開けてくれよ、な!くっそ、てめぇ!今度オレの必殺ネコパンチをお見舞いしてやるからな!シッシッ!なぁ、トオル。お願いだから開けてくれ!オレ(せま)いの嫌いなんだよ~!」
 
トオルはそう言ってカイが謝るのを聞きながら、その夜はウトウトと眠ってしまった。
 
 
次の日の朝、トオルが押入れを開けるとカイは中でぐっすり眠っていた。トオルはカイが外に出られるように部屋の扉も少し開けたままにして、いつものように学校へ行った。
午前中はいつもと何も変わらなかったが、トオルがお昼を食べ終わり職員室でゆっくりしていると、小学生たち(中には中学生も少しいる)が部屋の入り口から心配そうな顔をしてトオルの方に向かって言った。
 
「先生、今日はカイが来てないんだけど、どうしちゃったの?」
 
周囲の先生がこっちを気にしてるようなので、トオルはみんなを引き連れて廊下まで出ると、窓から外を見た。確かにカイはどこにもいないようだ。
 
「いつもお昼には来るのに今日はどこにもいないの。椎名先生、カイどうしちゃったの?」
 
体の小さな小学生たちが、みな(さび)し気な表情をしてトオルのことを見上げている。トオルは少し(かが)んで彼らに目線を合わせた。
 
「うんと…昨日ちょっとカイとケンカしちゃったんだ。それでもしかしたらすねちゃってるのかな?今日は来ないかもしれない。」
 
そう言うと、子供たちは「えぇ~!」と不満の込もった声を上げた。
 
「ねぇ、先生。仲直りして!カイと遊びたいよ~!」
 
みんながトオルのことをウルウルとした(ひとみ)で見つめる。トオルはこの瞳に弱い。
 
「…うん、よしわかった!じゃ、今日帰ったらカイと仲直りしてみるね。ゴメンね、今日は。元気になったらまた一緒に遊んであげてね!」
 
トオルは一番前にいた女の子の頭を軽く()でながら優しく言った。
 
「やったぁ!ありがとー、先生!」
 
そう言うと、子供たちは自分の教室の方に戻っていった。トオルはポリポリと頭を()いて、昨日はちょっとやり過ぎたかなと少し反省した。

 
学校帰り、トオルは商店街で買い物をしていた。カイのご機嫌(きげん)をとるために何か買っていってやろうと考えたのだ。商店街には最近できた若者向けのファーストフード店や小さなカフェもあるが、ほとんどは地元で長くから続いている老舗(しにせ)で、洋服店、駄菓子屋、乾物屋(かんぶつや)甘味処(かんみどころ)など、ざっくばらんにお店が並んでいる。トオルはその中で一つのたい焼き屋が目に入った。
そういえば、たい焼きなんて最近食べてないな。アイツはネコだし魚は好きなはずだよな。(たい)の形とか気に入るんじゃかな?そう思って店の前まで行くと、入り口には『大流行!白いモチモチたい焼き!』とか『女性にオススメ!粒餡(つぶあん)&ストロベリークリームMIX!』などと書かれた看板メニューが立っていた。「へぇ、今はいろんな種類があるんだな」トオルはその中から何種類か選び、カイと母親と自分にたい焼きを一つずつ買って帰ることにした。
 
「ただいま。ごめん遅くなった。ちょっと買い物しててさ。これおみや…。」
 
トオルが玄関を開けてそう言うかまだ言い終わらないうちに、幸子が(あわ)ててトオルの方に走り寄ってきた。
 
「トオル!ちょっと来て!カイが…カイが…大変なことになってるの!」
 
「え?どうしたの?」
 
トオルはびっくりして幸子の後を追いかけた。「まさか、カイの身に何か?それで今日、学校に来れなかったのか!?」トオルは心配しながらキッチンに入った。
 
「ほら、トオル!見て!」
 
トオルは思わずたい焼きの入ったビニール袋を床に落とした。そこではカイが…高そうな握り寿司をバクバクと夢中で食べていたのだ。トオルはポカンと口を開けたまま、呆然(ぼうぜん)とした。
 
(すご)いでしょ!最近わかったんだけど、カイったらお寿司が大好きなの!最初はスーパーのパックで自分のために買ってきてたんだけど、お昼に食べてたら私のお寿司に寄ってきて、それ欲しいみたいな顔するからあげてみたの。そしたらこの通り!今日は奮発(ふんぱつ)して出前とっちゃった。」
 
「…。」
 
「それから山葵(わさび)はあんまり好きじゃないみたい。だからサビ(・・)抜き(・・)。お醤油はちょっとつけた方が良いみたいね。カイってグルメちゃんだわ~。」
 
「…。」
 
「あら、トオル。それなあに?」
 
幸子はトオルが落とした袋に目をやった。
 
「あ、これ。母さんと自分に…。後で食べよ…。」
 
カイはたらふく美味(おい)しいものを食って大いに満足というような顔をしている。トオルは「このませた子供(ガキ)のようなグルメ猫には今日買ってきたたい焼きは一つもやらない事にしよう」と、心に決めた。


※アラサー:Around30(アラウンドサーティー)の略で、30歳前後の人のこと。
呆然(ぼうぜん):あっけにとられる様。
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