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Daisuke Kono

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「はぁ~、食った食った。ウマかったぁ!」
 
カイはいつものようにトオルの部屋に入ってきた。
 
「そりゃ良かったな。俺でさえあんなに高そうな寿司は最近食ってないんだぞ。トロもウニも入ってたじゃないか?」
 
「ああ、あれな。安いパックのヤツには入ってねぇよな。ありゃウマい!今日のはなんていうか、職人の技が光ってたねぇ。」
 
「職…」トオルは途中まで言いかけたが、(わずら)わしくなって止めた。
 
「しかし人間は良いな。あんなウマいもんばっか食えてよ。(うらや)ましいぜ。」
 
「おい、人間だっていつもあんな良い物ばっかり食ってるわけじゃないんだぞ!あんな高級寿司はおめでたい時とかご馳走(ちそう)の時にしか家では出てこないんだからな。それをお前、よりによって猫のカイにやるなんて…母さんもどうかしてるよ。」
 
トオルは激しい不満を口にした。
 
「なぁんだ、そうか。せっかくこれからは毎日アレが食えると思ったのによ。まあいいか。だが、野良(のら)だった時も食い物にはあまり困らなかったな。人間がそこいらにたくさん食い物を捨てたり残したりするからよ。まだまだ食えるってのに…全く、人間の考えてることはよくわからねぇぜ。」
 
「ふん、まさかそんなこと猫に言われるとは思わなかったよ。」

トオルは現代人が物を粗末(そまつ)に扱い過ぎてるという点では、確かにこいつの言う事にも一理あるなと思ったが、それを口に出しては言わなかった。

「で、今日は一体何の用なんだ?そんなことを言いにきたのか?」
 
トオルは話を切り()えた。
 
「おお、そうだった。実はな、トオルに頼みがあるんだ。」
 
「頼み?」

カイが俺に頼み事なんて珍しいなと、トオルは初めてのことにちょっと驚いた。
 
「前にオレがいた交番の近くに古い皿やら器やらを売ってる店があるんだが、オレをそこに連れて行ってほしいんだ。」
 
「前にいた交番?ああ、山本さんのいる駐在所のことか?あそこの近くで皿や器を売ってる店っていえば…「黒川屋」のことだな。入ったことはないけど場所は知ってるよ。カイ、お前そんな所に行きたいのか?古い物にでも興味あるのか?」

「黒川屋」の正式名称は「黒川屋骨董(こっとう)店」といい、トオルは店の中には入ったことはないのだが、黒川瑞江(みずえ)という40代半ばの、男性以上に「恰幅(かっぷく)の良い」という言葉が似合う女性が経営するお店であることは知っている。骨董のことは全く知らないトオルではあったが、店の窓越しに何十万、何百万とする皿や器が並んでいるのを見たことがある。「しかしカイがそんな所に行きたがるなんて、何が目的なんだろう?」トオルは疑問に思った。
 
「ま、皿や器自体には興味ないんだが…。ちょっとな。」

カイは含みのあるような答え方をした。
 
「でも、あそこだったら自分で行けばいいんじゃないのか?お前は猫なんだし好きなときに行こうと思えば…。」
 
しかし、カイは首を横に振って言った。
 
「いや、割れ物があるから動物が入ったりしないように店側もしっかり警戒してある。この姿だととてもじゃないが店の中までは入れねぇ。夜はしっかり厳重な戸締りもしてあるしな。」
 
トオルはやけに詳しいなと、そのとき不思議に思ったが、気にせず了承(りょうしょう)した。
 
「そうか…わかった。そこまで言うなら連れてってやるよ。ただ、明日は土曜日だけど俺は学校に用事があるから、明後日(あさって)の日曜日でもいいか?」
 
「おお。恩にきるぜ!悪いな、トオル!」
 
トオルはそんなカイのいつもと違う様子や態度に、明日雨でも降らなければいいけどなと思っていたのだが・・・しかし次の日、本当にが降った。


恰幅(かっぷく)良い:主に男性の堂々として貫禄(かんろく)があるさまをいう。ここでは、横幅があり体格がいいという意味。
了承(りょうしょう):相手の申し出を受け入れること。
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