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Daisuke Kono

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トオルは、職員室にある自分の机の上で「導きの器」を眺めていた。「これには隠された宝に関する秘密があるって瑞江さんは言ってたけど、一体何なんだろう?」そう思いながらトオルは最近、学校でも家でも器ばかり見ていた。時には器に水を入れてみたり()にかざしてみたり軽く叩いてみたりもしたが、何か起こりそうな気配は一向になかった。湯舟先生はトオルのそんな様子を見て完全に骨董に目覚めたと思ったらしく、骨董展に何度か誘ってくることがあったが、トオルはその度に上手くごまかして断っていた。カイは「もしかしたらその器は、宝の隠し場所で使う道具なのかもしれない」というようなことを言っていたが、トオルもそんなふうに考えていた。ある日のことだった。トオルが資料室で調べ物をしていると、咲がドアを開けて入ってきた。
 
「あ、椎名先生。ここにいたんですか?もうすぐ始まりますよ、放課後の職員会議。」
 
「あ、そうでした。今行きます。すみません。」
 
トオルは職員会議があることをすっかり忘れていた。今日の職員会議では、再来週に(ひか)えている1学期の終業式の打ち合わせなどをする予定なのだ。
 
「ここで何をなさってるんですか?なんか最近、先生たちの間でも噂になってますよ。椎名先生が机に座って変な器ばっかり見てるとか、資料室に閉じこもってるとか…。生徒たちの中には『ついに湯舟2号誕生だ!』なんて言っちゃってる子もいますけど。ふふっ。」
 
「あ、いや、別にそういうわけじゃないんですけど…。」
 
トオルは咲に笑われて少し恥ずかしくなると同時に、まさか先生や生徒たちにそんなふうに言われてることにも全く気が付いていなかったことに驚いた。トオルは調べ物を止めて資料室を出ると、咲といっしょに職員室の方に向かって歩き始めた。
 
「今、個人的な興味で…「石川五右衛門」の人物像について調べてるんです。」
 
「「石川五右衛門」って…あの有名な泥棒の、ですか?」
 
「はい。主に出身地とか生い立ちとか、わかる範囲だけなんですが…。」
 
「へぇ、そうでしたか。椎名先生が「石川五右衛門」を…なんか、ちょっと意外です。社会の先生みたいですね。」
 
「はは。いや、まぁ。」
 
トオルは話を変えた。
 
「そういえば、双葉先生は夏休みのご予定は何かおありなんですか?」
 
トオルはもし咲に予定がなければ、上手くいくかどうかわからないが一度食事にでも誘ってみようかな、と考えていた。
 
「夏休みは一度叔父(おじ)の所に行こうと思ってるんです。私が子供の頃はその叔父によく遊んでもらってたんですが、今、仕事でちょっと離れた所に住んでるんで、それで最近全然会ってなくて…久しぶりに家族みんなで会いに行こうかなって。あとは学校に来るのがほとんどですね。他の先生に聞くと、夏休みもたくさんお仕事あるみたいなんで。」
 
「そうですか…そうですよね。」
 
トオルはちょっと肩を落とした。
 
「椎名先生は何かご予定はあるんですか?」
 
「いえ、僕はまだ…。」
 
トオルは学校に来る日はあるが、それ以外のちゃんとした夏休みの予定はまだ何も決まっていなかった。
 
「仕事は忙しいですけど、お互い良い夏休みになると良いですね。」
 
「そうですね。」
 
トオルは「咲とずっとこのまま話ができたらいいな」と、心の中でそう思った。
 
 
その日、トオルは夕方少し遅くなってからようやく仕事が終わった。夏なのに外はもうすっかり暗くなり始めている。そんな中でも、学校の正面玄関を出て自転車置き場に向かう間、トオルはずっと器を眺めていた。
 
「とおるせんせーい!だぁーれだ!?」
 
突然、後ろから目隠しをされたのでトオルは驚いた。
 
「ゆ、結城(ゆうき)さんですか?」
 
「当ったり~!」
 
目隠しをとってトオルの前に姿を見せた女の子は、3年E組の結城愛(ゆうきあい)だった。トオル自身は現在3年生の授業はないのだが、去年2年生の数学を教えていて、その時に担当していたクラスの生徒の一人だ。愛はトオルのことがかなりお気に入りで、生徒の中で彼女だけがトオルのことを「とおる先生」と呼び、時々こうしてスキンシップを図ってくる。小柄でショートヘアー、大きな目が特徴の可愛らしい女の子で、同学年の男子生徒からも結構モテるらしいのだが、トオル自身は正直、彼女の扱いがあまり得意ではなかった。
 
「ねぇ、とおる先生。また、彼氏のことなんだけどぉ…。」
 
愛はよくトオルに恋の話や彼氏の話をしてくる。やれカラオケに行っただの、帰りに手を繋いだだの、逐一(ちくいち)報告に来ては帰っていく。彼女の話はいつもそんな内容だったが、ニュースで報道されている援助交際のような犯罪と比べれば健全な男女交際をしているようだったので、トオルはとりあえず安心していた。
 
「……でぇ、その日は二人で帰ったの。ね、ね、どう思う?」
 
「そうですか。それは…良かったですね。」
 
「もう、ちゃんと話聞いてたぁ?」
 
「え?聞いてましたよ。」
 
トオルは正直あまり話を聞いていなかったので、はぐらかしながら答えた。すると愛は突然、唐突(とうとつ)に腕を組んできて言った。
 
「卒業したら彼氏と別れて、とおる先生と付き合っちゃおっかなぁ。」
 
「え?いや、ちょっと…それは困ります。」
 
「はは。冗談だよ~。もう本気にしちゃって、とおる先生かわいいー。」
 
トオルは愛を邪険(じゃけん)に扱っていいものかどうかわからず頭を()いた。「やはりこの子はちょっと苦手だな」そう思ってドギマギしていると、愛はトオルが右手に持っている物に気が付いて、それをサッと彼の手から奪い取った。
 
「これなぁに?なんか古臭くてオジンっぽーい!とおる先生、これ、「長老」からもらったんでしょ?」
 
「長老」は湯舟先生のあだ名だが、問題はそこじゃない。愛がぽんぽんと器を手の平の上で遊ばせ始めた。
 
「結城さん、ダメですよ!それ返して下さい!」
 
「キャハ!やだ!」
 
傍目(はため)から見たら、この状況はまるでカップル同士がいちゃついてるみたいだ。他の先生に見られたらどう思われるだろう?しかし、トオルはそんなことに構っている余裕はなかった。
 
「結城さん、返しなさい!それは大事な物なんだ!100万円以上する価値ある物なんだよ!」
 
「え?ウソ!?」
 
愛はその値段を聞くとびっくりして急に立ち止まった。その反動で、器は愛の手から地面に(すべ)り落ち、ガシャンと音を立てて真っ二つに割れてしまった。トオルは口をポカンと開けたまま呆然(ぼうぜん)となった。
 
「やだ!わ、割れちゃった…どうしよ、とおる先生。ゴ、ゴ、ゴメンなさい!!」
 
愛はそう言うと、しくしくと泣き始めた。トオルは肩を落としたが、
 
「…まぁ割れてしまったものは仕方がない。結城さん、大丈夫です。そんなに泣かないで下さい。これは確かに高価な物ですが、(わけ)あってタダでもらったものですから。でももうこんな悪ふざけは、二度としちゃダメですよ!それより怪我(けが)はなかったですか?」
 
そう言うと、愛の頭に軽く手を置いて優しく(なぐさ)めてあげた。すると愛は少し泣き止んで、
 
「うん。大丈夫。ホ、ホントにゴメンなさい…もうしません。」
 
と謝った。
 
「ホントに大丈夫だから。ほらもう暗いんで、早く家に帰りなさい。」
 
トオルがそう言うと彼女は、
 
「は、はい、先生。さようなら。今日は本当に…ごめんなさい!!」
 
と深く頭を下げ、しょんぼりしながら家に帰っていった。「度が過ぎなければ良い子なんだけどな」トオルは愛のことをそんなふうに思いながら、彼女の姿が見えなくなるまで見送った。
 
「しかし、これ…帰ってカイに何て言おう。」
 
トオルが割れた器を拾おうとすると、器の破片の割れた部分にわずかな空洞があって、その隙間に二つ折りの古い紙のような物(はさ)まっていることに気が付いた。そして、それを破かないようにそっと引き抜いてみると、そこには手書きの文字いくつか図形のようなものが書かれてあるのが見えた。
 
「こ、これって…まさか!?」
 
トオルは紙をポケットに入れ割れた破片を拾い集めると、家にいるカイの元へと急いだ。


邪険(じゃけん):相手の気持ちを汲み取らず、ひどい扱いをすること。
※肩を落とす:がっかりして力が抜けること。
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